chirashi

エモーショナルな人生を

ナイトプールに行こうとしたら7年ぶりに生理になった話

8月のはじめ、信じられないほどに疲れていた。すべてのやる気が出ない。お腹の調子がなんとなく悪く、ほんの少し熱っぽい。咳もないし喉も痛くないけれど、コロナなのだろうか。それにしては、身体は元気な気もする。社会情勢もあるし、念のため、予定していた飲み会はキャンセルをした。

その週は、久しぶりに長めに実家に帰った直後だったり、仕事で抱えるプロジェクト数が増えていたり、もうすぐ嫌な通院があったり、そもそも暑過ぎる、思い当たる要因がいくつかあった。それらから自分なりに出した結論は「疲労」。ちょうど夏休みが取れたという夫に合わせ、わたしも一緒に休むことにした。1泊、ナイトプールにいこう。去年も夫と行って、すごく気に入った海の中道にあるホテル、ルイガンズ。

道中、突然生理になった…… 気がする。

もう何年も生理なんてきていない身体だから、にわかに信じられない。いま……? でもこの、股を何かがつたう不快な感じは生理だと直感的に思いだす。急いでショッピングモールのトイレに駆け込むと、案の定しっかり出血していた。そういえば生理って、けっこう血が出るんだよな。ため息をつきながらトイレットペーパーで応急処置をし、待っている夫に伝えた。

「ちょっと信じられないけど、生理になった」

急いでコンビニに行き、ナプキンとサニタリーショーツを買う。生理と無縁の生活においては、生理用品のひとつも持ち合わせる習慣がなくなっていた。ただ、真っ赤なワンピースを着ていたことは救いだった。わたしの夏休みは、ナイトプールは、どうなってしまうんだ。

でも、お腹が痛かったのも、熱っぽかったのも、すべてのやる気がなくなったのも、すべて合点がいった。ああ、生理前だったんだ。

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わたしは、2015年に乳がんの治療で、生理を止めうる抗がん剤(ドセタキセルを含む)を使って、その後に生理を止めるホルモン治療(リュープリン)を行っていたので、生理は7年以上止まっていた。正確には、1年半ほど前に一度軽い出血があったけれど、その1度きりだった。だからもう、わたしには生理は戻ってこず、治療による更年期症状から実際の更年期に入ると思い込んでいた。

実をいえば、生理のこない身体のことをかなり気に入っていた。特に、ここ5年くらいは身体との付き合い方も身について、メンタルも落ち着いていて、やりたいことに集中できていたと思う。だから、これがずっと続けばいいと、希望的観測を持っていたし、その前提でさまざまな計画を描いていた。

それがまた元の生理のある身体に戻るということに頭がついていかない。そういうネガティブな感情も、まだまだホルモンバランスが不安定なせいで出ているのかもしれないけれど。

生理後にちょうど定期検診があったので、主治医に近況を伝えると「30代以下は、リュープリンの効果が切れて2年以内に生理が戻ることが多いから予定通りだよ」とのこと。しばらくは周期は不安定かもしれないから次の通院まで様子を見ましょう、とも。

女性ホルモンが急激に減ることを「更年期」と呼ぶし、急激に増えることを「思春期」と呼ぶ。となると、わたしは2回目の思春期なのかもしれない。

思春期だと考えてみれば、この情緒の不安定さも、まあ仕方ないか。しばらくは自分を労りながら生きよう。36歳の思春期には、知識と経験があると信じたい。

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ところで、ナイトプールは楽しげな夫を眺め、なんとか元気が出た。